【感想】久遠の絆 再臨詔
この終わり方は予想していなかった。
今作の再臨詔ENDを読んだ後に抱いた感想です。
トゥルーENDを読んだとき、なるほど綺麗に終わったなと思っていたのですが、それを踏まえたうえであえて違うENDを読めるとは。
それぞれのヒロインルートのシナリオも読みごたえのあるものでしたが、個人的にすべての登場人物にスポットを当てた再臨詔のシナリオが良かったです。
その点を踏まえて、ゲームをクリアした感想を書きたいと思います。
感情に振り回される人々
「久遠の絆」は、遥か昔に愛し合った男女が輪廻転生を繰り返し、出会うたびに互いに惹かれあいそして別れるという悲恋が描かれています。
本編内では平安、元禄、幕末、現代が舞台となるのですが、それぞれで様々な人物が登場します。
そして各時代で悲劇が描かれるのですが、それは登場人物が抱く強い感情が原因であることが多いのです。
愛はもちろん嫉妬、劣等感、羨望、憎悪と様々な感情が入り乱れ、人々はそれに振り回されます。
何不自由なく、幸せに生活しているように見える人でも、一旦その感情に支配されると簡単にそれまでの自分を失ってしまうのです。
程度の違いはあれど、各時代で丁寧にそれを描写するので「人は感情で簡単に理性を失うのだな」と痛感しました。
お話なので誇張している部分はありますが、現実でもあり得ることです。
悠利はその最たる例です。
悠利は武への憎悪、栞への偏愛を理由に転生をしていました。
トゥルーを含めた各ヒロインのシナリオで、怨念を纏い立ちはだかる敵として必ず登場するところも「感情に振り回された人間」の末路を強調しています。
先日感想を書いた「虎よ、虎よ!」は、人として多くが欠けていたフォイルが感情を発端に人間性を獲得していく物語でした。
しかし、「久遠の絆」は感情を機に何の問題も無かった人間がその人間性を失い感情と欲望だけで暴走する様を描いています。
この対照ができたこともこの作品を興味深く読めた要因だと思います。
他人の中の自己
「久遠の絆」の登場人物たちに通念しているのが「他人の中に自己を形成する」ということでした。
武は万葉を始めとした友人たちを愛し、守ることが存在理由です。
闇の皇子という定められた自己を持ちながらも、すべての他者を確立させる規を掲げる神として君臨し、それを自分の存在理由としました。
他の登場人物にも同じような思いが見られるのですが、それがより強調されたのが汰一でした。
汰一は転生を繰り返す中で、自分に近しい存在である武を愛おしく思うと同時に、自分が持っていない人望を持っている武を羨んでいました。
それを自覚し恥じてからは、無意識に自分を黙殺し、周りの人間関係を一番に考えるようになり、それを壊そうとする存在を排除するようになります。
いつしかそれが汰一のパーソナリティになり、存在理由となります。
しかし、自分を好きだという絵里の存在により汰一の自己は揺れます。
再臨詔のシナリオで武が指摘したように、汰一は周りを守ることだけに専念していたので周りと関係なしの自分が分からなくなっています。
なので、絵里に「汰一」という自己を好きだと言われたことで、その「汰一」を意識してしまい「周りを守ることだけを考える汰一」との乖離が起きます。
他人に自己の存在理由を求めることは決して悪いことでありません。
しかし、それは自己の中の自己を無視していいことではないです。
ひたむきに汰一を愛し、大事なことに気が付かせてくれた絵里は汰一にとって正しく天使ともいえる存在でしょう。
再臨詔
トゥルーEND後に最初から始めると登場する追加選択肢があります。
それで特定の選択をすると再臨詔シナリオに入るのですが、個人的にはこの再臨詔シナリオが一番面白かったです。
もちろんそれまでの各シナリオがあったからこその面白さなのですが、ADVだからこそできる仕掛けになっていたのが印象深い。
各ENDを見て、それを記憶しているプレイヤーが「最初から始める」ことを「END後の武が時を遡る」ことに重ねるとは、判明した時に仰天しました。
武が遡ったことに気が付くとき、プレイヤと武が一瞬重なる感覚があり、興奮しましたね...。
トゥルーENDで正しく終わることができた世界でも、犠牲になった人や心はあった。
それらを救うために神になった武と万葉が「最初から始める」のが再臨詔シナリオなのです。
関わった人や物にきちんと折り合いをつけ、またそれぞれが抱える問題に向き合いながらシナリオが進むのでとても読み応えがあります。
先に書いた悠利や汰一も掘り下げがされるので、それに連なる高杉や絵里の悲劇も回避できたりと良いことづくめです。
また、トゥルーENDの終盤で正体が発覚する天野先輩も取り上げられ描写が足りなかった彼女の魅力も存分に堪能できます。
というより、彼女を目立たせるためにこのシナリオが出来たのかもしれませんね。
再臨詔シナリオは追加シナリオですが、初期版発売後彼女の人気が高くて追加されたのかもしれません。
しかしそれにしては専用スチルも多いしおまけとは思えないボリュームのシナリオなので、気合が入っていることが分かります。
もし再臨詔が無い初期版をプレイしていたらここまで自分の中の評価は高くなかったでしょう。
それくらい、このシナリオは素晴らしいです。
もし未プレイで、今後プレイする予定があるならこの再臨詔が含まれているバージョンをお勧めします。
読後の充実感はこのシナリオがあると無いとでは雲泥の差です。
最後に
1998年に初期版が発売された作品なので、絵柄も時代を感じるし後から発売したPS2版も声は入っていません(フルボイス版もあるらしいですが)。
またテキストが枠の中ではなく画面全体に表示されたり、台詞に「♡」や「☆」が入っている、戦闘要素もありと個性を感じるところも。
しかし、日本神話をベースにした舞台背景や読みやすいテキスト、丁寧な心理描写も相まって読めば読むほど引き込まれる作品です。
輪廻転生モノは苦手だったのですが、本作はそこに重点を置かず、むしろそれを利用して人の心の機微を読ませてくれたのが良かった。
当時人気が出たのも、追加シナリオが入ったバージョンが出るのも納得です。
制作のF.O.Gは「風雨来記」シリーズや「雨格子の館」シリーズといった名作シリーズを生み出しているメーカーです。
今まで全くここの作品はやったことが無かったのですが、「久遠の絆」が素晴らしかったので他の作品にも手を出してみようかと思っています。
「風雨来記」は最新作になる4が今年発売予定だそうな。
PS2のキャプチャを撮れるようになり、まずは落ち着いて撮れるであろうADVを...という少し打算で始めたところもあった今作でしたが
好きな文章が流れるたびにバシバシキャプチャを撮ることになる打算からかけ離れた作品でした。
素晴らしい作品に出会えたことに感謝します。
それでは、今回はここまで。
後は気にいったキャプチャを貼り付けます。