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【雑記】テーマの体現となったフレイ・アルスター -機動戦士ガンダムSEED-

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ガンダム三大悪女」に名が挙がることもある「フレイ・アルスター」。
本編を観てみると、なるほど男子の淡い恋心を利用して自分の目的を果たそうとする
(しかも元々恋仲であった彼には一方的な拒絶をする)
とんでもない女性でした。

 

しかし、前半こそそうであれ物語後半になると、そのイメージがどんどん崩されていくのを感じます。
終盤に至っては、全くと言ってもいい程違う印象を持つことになり、悪女としてはふさわしくないとすら思うほど。

 

今回はそんな「フレイ・アルスター」について思ったことを書きたいと思います。

 


自分を形作るもの

ヘリオポリスでのキラの同級生。この物語のヒロインのひとり。 典型的なお嬢様タイプ。
②キラたちの学校のマドンナ的存在。育ちのよく、お嬢様タイプ。父の死後、軍に従軍し二等兵としてアークエンジェルに勤務する。
③アラスカからクルーゼにより拉致され、ザフトの軍服に身をつつみ、クルーゼと共に行動していたが、捕虜返還の際に「戦争を終わらせるための鍵」も持って、ナタルら地球軍に保護される。

 

上記はSEEDの公式サイトに書かれているフレイの説明文。
(①が1~2クール、②が3クール、③が4クールの説明)

 

これだけ読んでみると、本編でのフレイの活躍がほとんど分かりません。
お嬢様タイプの女性であることは間違いありませんが、フレイの真髄はそこではありません。


wikipediaにもっと深堀りした人物像が記載されていました。

 

父の理想とする女の子になることを目標としているため、オシャレにも人一倍気を遣っている。カレッジのアイドル的存在。ブルーコスモスの一員である父の影響で、コーディネイターに強い偏見を持っている。
サイとは親同士が決めた婚約者で、両想いであった。

 

彼女は大西洋連邦の外務次官の父を持つ名実共にお嬢様で、母が他界していることからも、父の理想にふさわしい女性になろうという思いを強く持っています。
そんな父は反コーディネーター思想を掲げるブルーコスモスの一員。
フレイもその思想に触れ、コーディネーターへの偏見をもっています。

 

ここまでで、彼女を形作っているものは周りから与えられたものが大半であることが分かります。
お嬢様キャラは父の理想への答え。
反コーディネーター思想は父の属するブルーコスモスの受け売り。
婚約者でさえ親から与えられたもの。

 

「人間を作るのは環境」とはよく聞く言葉ですが、まさにフレイはその典型例です。
彼女は自分の周りの環境に適応した生き方をしてきて、それが正しいと信じています。

 

つまり言い方を変えれば彼女は自分の環境の外のことは何も知りません。
反コーディネーター思想も、コーディネーターは悪いと信じていてもその理由は知りません。考えません。
環境から与えられたものがすべてだからです。

 

フレイが公然の場でキラに対して拒絶反応を示すのも、それが正しいと思っているから。
サイに咎められますが、この時は納得はしていないでしょう。

 

そして、自分にとって絶対であった父の喪失により、彼女の「正しさ」は暴走します。
父を殺したコーディネーター、そして父を助けられなかったキラへの復讐に走るのです。

 

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環境の破壊と未熟な自己の露呈

キラの自分への恋心を利用し、そして女という武器も利用して、傷心のキラの拠り所となろうとしたフレイ。
その姿はまさに悪女であり、当時の子供たちからしたらとんでもない女だと思われても仕方ありません。

 

しかし、父を始めとした自分の環境が壊れたことによりフレイは守られていた未熟な自分を晒すことになっていきます。
サイとの関係も切ったことによりキラと益々深く繋がるかと思いきや、むしろすれ違いが増えていく一方。

 

それもそのはず。
キラはフレイへの依存に甘えながらも、戦いや周りの人との交流の中で、自分という存在、自分のあり方について悩み始めます。
でも環境の破壊によって自分を保つことが精いっぱいなフレイにはそんな余裕はありません。
むしろ、フレイがキラに依存することになっていき、フレイが築こうとしたフレイ>キラという関係も崩れます。

 

それはアークがオーブに到着した際の、残ったキラとの会話でも見られます。

 

常にキラより自分が上、気遣うべきは自分であって、キラではない。
コーディネーターよりもナチュラルが上。

 

暴走した後のフレイには上記のような考えがあり、それはキラを失うまで自分自身でも気が付かないほど強く、根底にある思いでした。

 

キラを失ってからのフレイは、見ていてかわいそうです。
キラを求めるもMIAだと突き放され、サイと関係を戻そう(環境の再構築)としても拒絶され...。

 

ただし、この経験をしたからこそフレイは終盤で自分の根底の思いを見つめなおし、考え直すことができました。
そのために、きっと必要な試練だったのでしょう。
未熟な自己は、環境を破壊された初めてその未熟さに気が付くのです。

 

 

カテゴライズの中と外

トールを失ったミリアリアが捕虜として捕まっていたディアッカと偶然出会う場面は、観ていてとてもハラハラしました。
あのミリィが怒りをあらわにしてナイフを構える姿は、普段の様子からは想像もできないです。

 

その様子を目撃したフレイは、傍にあった拳銃を構えて「コーディネーターなんて皆いなくなればいいのよ!」と言い放ちます。

 

そして、それを聞いたミリィは正気に戻り、フレイを止めて自分も殺そうとしていた相手を助けます。

 

ここでは、フレイとミリィの強さというか逞しさというか、考え方の違いが如実に出ていました。

 

ミリィはトールを失った悲しみと喪失感を、トールが最後に戦った戦闘で捕まった捕虜個人にぶつけようとしましたが、それはあくまで今目の前にいるディアッカに対してです。
結局、ディアッカはトール戦死に関係していないと分かり復讐を止め、殺害した本人のアスランと邂逅した際も復讐することはありませんでした。

 

ミリィは怒りの対象をコーディネーター全体へ向けず、そして殺されたから殺して...という不毛な復讐のループにも加担しません。

 

しかしフレイは、憎しみの相手はコーディネーター全体。
そして戦う理由は父を殺したコーディネーターへの復讐、とミリィと正反対の考えです。

 

ここで全体の感想でも書いたカテゴライズの考え、そして二人を形作った環境の違いが関係してきます。

 

ミリィは、キラを人種関係なく友達扱いするトールの彼女でしたので、キラやコーディネーター全体への偏見はほとんどなかったと思われます。

 

なので人を見る時、人種というカテゴライズの中にある個人で見ています。

 

フレイは先にも書いたように、父のコーディネーター批判の思想を間近で見ながら育ちました。
与えられたその思想を疑うこともなく人を見るので、人種というカテゴライズの外からしか見ることができません。

 

カテゴライズの中と外。
自分から見たディアッカとフレイからみたディアッカが違うと気が付いたミリィは、そんな理由でトールの復讐をしたいんじゃない、とフレイの凶行を止めたのでした。

 

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気付きと理解

様々な経験をしたフレイ。
未熟な自分に気が付きもせず暴走していた彼女でしたが、クルーゼに攫われてから徐々に自分のことを考え始めます。

 

コーディネーターというカテゴリに放り込まれて初めて見ることになった「個人」(クルーゼ、イザーク)。
そしてクルーゼの思惑でナチュラルというカテゴリに返されたときに、改めて見た「個人」(アズラエル)。

 

何が正しいのか、コーディネーターは悪なのか、ナチュラルは善なのか。
彼女は最後の最後に答えを出します。

 

ずっと本当の相手を見ていなかった自分。
「当たり前」を疑いもしなかった自分。
そしてキラへの本当の想い。

 

それらに気が付き、そして理解したフレイはまさしく、人の根底にあるカテゴライズの考えから脱却した、ラクス達の求める世界です。

 

それをキラへ伝えることも、そして変わったであろう人生を歩むことも叶わないという悲しい最期を迎えてしまった彼女でしたが、一番それを分かち合うべきキラに守られた、それは彼女にとって大きな救いになったでしょう。

 

フレイが精神世界でキラへ語り掛けるシーンは、キラにはフレイの言葉が届いていないそうです。
もしかしたらキラにも言葉が届いているのかなと期待していましたが、そこは無慈悲でした。
でも、言葉は届かなくても、フレイの想いはキラに伝わっていてほしいと願います。

 

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SEEDのテーマの体現

個人的に、フレイはSEEDで掲げられた「非戦」というテーマの体現的存在であると思います。

 

カテゴライズの考えから生まれる偏見、批判、そしてそこから派生する排斥、排除の運動。
それを防ぐには、戦うこと非ずとするには、フレイのような固定観念からの脱却とその理解が必要なのです。

 

そしてそのためには、固定観念を作り出している自分の周りの環境から外れる必要があります。
外れることで初めて現れる未熟な自分を認識し、環境の外を物事を知って学ぶのです。

 

フレイはそれをやり遂げた「非戦」の体現。
ヒロインの一人、という紹介も見かけましたが、もはやヒロインでは収まりきらないです。

 

本編を観るまでと観始めたときは、悪女に選ばれても仕方がない、と思っていました。
が、後半からは観れば観るほど彼女から得るものは多く、考えさせられました。

 

悲しい最期を迎えた彼女ですが、その想いはきっとキラにも伝わっていると信じて、続編のDESTINYを観賞しようと思います。
色々と言われている続編ですが、どんなシナリオが展開されるのか、楽しみです。

 

そしてフレイのような、この作品を代表するにふさわしいキャラが登場することを密かに願っています。

 

今回はフレイを中心に考えたことを書きましたが、また別のキャラでも考えたいことはたくさんあるので、こういった記事はまた出てくるかもしれません。
そんなことしていると、いつまでも続編を観られないんですがね...。

 

何にしても、一人のキャラについてここまで語ることができたのはたぶん初めてだと思います。
こんな魅力的なキャラに出会えたことに感謝します。

 

フレイ、ありがとう。