世界を斜め下から見る

色んなモノの感想を書く。

壁 〜第一部 S・カルマ氏の犯罪〜

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 みなさんこんにちは、れぐれすです。

 

ゴールデンウィークいかがお過ごしですか?

私は絶賛引きこもってセコセコと小説やゲームを消化しております。

 

今回は小説の感想です。

 

「壁」 安部公房

 

 芥川賞を受賞した作品であり、僕が初めて読む安部公房さんの作品です。まだ読み終わってないのですが思うところがあったので感想をまとめておきたかったのです。

 

 第一部の大まかな流れはこんな感じ

①主人公の「僕」はある朝自分の名前が突然思い出せなくなる。自分の持ち物からも名前のみ消えている。

②同時に胸に空虚感を抱えるようになり、自分の気になったものを見つめるとその胸の中に吸収してしまうようになる。

③動物園のラクダを吸収しそうになっているところを逮捕されて裁判にかけられるが、名前がないので有罪にできず、かといって無罪にもできないので永久に裁判が続けられると言われる。

④「世界の果」というところに逃げることにした主人公。世界の果に辿り着くも自分は「壁」になって永遠に成長し続けることになって終了。

 

 うん、訳わからない。

 

 でも読んでいると不思議と進むのです。すごく読みやすい。

それはちょっと面白おかしく登場人物が喋ることや読みやすい文章に理由があると思います。お堅い感じでなくふわふわした感じ。

 

 で、上記の流れの感想ですが

 

①名前を失う

 主人公はある朝突然名前が思い出せなくなります。自分の持ち物からも名前のみ消え、他の人も自分の名前を思い出せなくなる。

 

 序盤はそのことによる不便さが描かれています。署名ができない、病院で名前を伝えられないなど。

 

 原因としては主人公の名刺が主人公の名前を奪ったからでした。いきなりファンタジーな感じですがこんな雰囲気で進んでいきます、この作品。しかも名刺君は主人公の姿をとって勤め先にも代わりに出社して主人公の居場所を奪ってしまいます。

 

 ここを読んでて思ったのは現代社会における人間の価値です。今の人ってその人自身に価値があるんじゃなくてその人に付属している付加価値に依存しているように思うんです。

 

 それは家の稼ぎ頭だったり、社会的地位であったり、名前であったり。その付加価値ー媒体というべきかーが無くなったらその人に価値はなくなり周りから認識されなくなる。カフカの「変身」でもそんな感想を抱きました。

 

 主人公は名前という媒体を失って、職場を失って、ボロボロです。可哀想。で、名刺君が何故主人公の名前を奪ったのかというと、自分の意思を持てずに人間の言いなりにしかなれない無機物の反逆だったということらしいです。

 

 名刺以外にもネクタイや時計や上着たちも主人公に反逆しようと画策しています。人間の価値を高めるだけの媒体にとどまっている道具たちの反逆...これも面白いですね。時計は12時だけを指したいのかもしれない、ネクタイは首に巻いて欲しくないのかもしれない、でも人間が自分を高めるためにそれを無視して自分の使いたいように使う。これは反逆したくなるかも。

 

 実際に道具たちに反逆されてしまったら世の中は滅茶苦茶になりますね。人間は無機物に依存しすぎているのかも。

 

②胸の空虚感

 名前を失うと同時に主人公は胸の空虚感を覚えます。そして自分の気になったものをその中に吸収してしまう力をつける。強そう。

 

 病院で診てもらうも原因が分からないばかりか待合室の雑誌の挿絵の曠野を吸収してしまう。

 

 この空虚感は自分に媒体が無くなったことから、その空いた部分を何かで埋めようとしているのかなーと思いました。そして曠野を吸収したのはなにも付加価値のない、生まれたままの曠野に親近感を持ったからかなと。

 

 このあと動物園にいくと曠野に住むと思われる動物たちに哀れみの目を向けられます。人間には何かしら媒体があるものだけど、それもない主人公に付加価値をもたない動物たちも哀れみを覚える。

 

 それに屈辱とか恥ずかしさとか覚える主人公。人間は無意識に媒体に依存していることに気がついているのかもしれないですね。

 

③裁判

 動物園でラクダを吸収しかけた主人公はへんな裁判にかけられます。そこで言われたことは名前ない主人公には有罪を下すことはできない。しかし同時に無罪にもできない。永遠に裁判は続いてしまうというもの。

 

 名前がない弊害がここにもきましたね。人間社会にとって名前はあって当たり前。それも与えられない人には何の権利も持てないんですね。人権というものが発生しません。

 

 ここのシーンは裁判官や周りの人たちの掛け合いがスピーディーで愉快で読んでて楽しかったです。主人公の吸収パワーに気がついた時に皆が逃げていくのも面白かった。

 

④世界の果

 色々あって主人公は世界の果というところに逃げることにします。ここら辺から僕には理解が難しいところが多かったです。

 

 世界の果は主人公の部屋、かつ主人公は壁になって終了。

 

 世界の果とは何なのか、壁とは何なのか。付加価値を失った人間は曠野で個性のない壁となって成長し続けるしかできない、ということかな。つまり壁って何だってばよ。

 

 今はネット情報は見てない状態で感想書いているので尻つぼみな感じですがこんな感想を持ちました。一番感じたのは人間の価値。現実の僕たちも周りから本当の自分を見てもらえているのかと。

 

 自分の立場やキャラ、社会的地位に自分も周りも依存しているのではないかと不安になります。もしいきなり周りに今までと違う態度で接したら周りは認めてくれるのか、拒絶されるのかとか考えさせられました。

 

 そのような関係にとどまらないように、そのままの自分を認めてもらえるように生きていきたいです。頑張ります。

 

 今回は以上、最後まで読んでくれた方はありがとうございました。